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五十嵐貴久の「波濤の城」 [読書]

波濤の城

波濤の城

  • 作者: 五十嵐貴久
  • 出版社/メーカー: 祥伝社
  • 発売日: 2017/10/11
  • メディア: 単行本
炎の塔 (祥伝社文庫)」に続くパニックシリーズの第二弾。今度は船です。超豪華クルーズ船の「レインボー号」が漂流物と接触、排水装置の不具合から浸水が始まったのに加え、超大型台風との遭遇により沈没の危機に!というお話です。

登場人物、主人公は「炎の塔」で活躍した女性消防士。休暇を利用して乗船したクルーズ船が予期せぬ沈没の危機に直面するという展開は、かつて不幸を呼ぶ男として全世界に勇名をはせた「 ダイ・ハード ブルーレイコレクション(5枚組) [Blu-ray]」のジョン・マクレーン(ブルース・ウィルス)さながらです。

本書は遭難、沈没に向けた条件設定が全てそろっています。プライドが高く、自己保身に終始する船長とその腹心の部下たち。利権(カジノ法案推進、IR推進派の国会議員)を嵩に着てわがままな態度をとる有力者。組織の意向を盾に上司のいうことを聞かない管理職・・・五十嵐先生はここ数十年に実際に起こった海難事故のトピック

を参考にしたそうですが、まさに大パニック!乗船していたらこれは助からん!という気持ちになりました。

事故に導く要因を作ったのは、登場人物それぞれが持つ職業や使命の矜持を忘れた人たち。それを回避、阻止し、人命救助に命をかけた登場人物たちはそれぞれの立場に矜持を持った人たち。

昨今の世の中、矜持を忘れた人があまりにも多すぎるような気がします(気のせい?)。

それにしても五十嵐先生のパニックシリーズ、まだ続くようです。日本版ジョン・マクレーン(五十嵐版では女性ですが)誕生の間近です!

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門井慶喜の「家康、江戸を建てる」 [読書]

家康、江戸を建てる

家康、江戸を建てる

  • 作者: 門井慶喜
  • 出版社/メーカー: 祥伝社
  • 発売日: 2016/02/09
  • メディア: 単行本
なぜか最近“江戸”がブーム?NHKスペシャルの「大江戸シリーズ」や同局の「歴史秘話ヒストリア」などで江戸開府にまつわる番組が相次いで公開されています。
オリンピック前の再開発による新たな発掘や新資料の発見、明治維新(戊辰戦争)150年という節目の年に当たるということもあるのでしょうか?18世紀には人口100万人を数え、当時としては世界最大の規模に発展したという江戸。漠然と明治維新前の封建時代の江戸が全て否定される風潮がずーっと続いてきただけに(誰のせいだ?)こうした見直しの動きは個人的には非常にありがたいというか、大歓迎である。
本書は1590年の豊臣秀吉による小田原征伐後の仕置きによって関東移封を命じられた家康が、太田道灌築城といわれる江戸城を新たな拠点とし、街づくりを始める様子が描かれています。利根川の流れを変えた伊奈一族、小判=新貨幣鋳造に携わった橋本(後藤)庄三郎、上水道の整備を進めた大久保藤五郎と七井の百姓、そして春日与右衛門、石きりと石積みに命を懸けた五平と喜三太、江戸城天守閣の建設を巡る秀忠と家康の企図・・・江戸が実質的な首都としての機能を備えていくはじめの一歩が描かれています。
合理的かつ科学的で今の発想にも通じる考え方。何かを成し遂げようとする者が醸し出す迫力、情熱というものが素直に読み取れる内容。そうか!こうだったのか!という小さな感動の連続で面白かった。来年の正月時代劇で映像化されるようです。楽しみです。

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伊坂幸太郎の「AX アックス」 [読書]

AX アックス

AX アックス

  • 作者: 伊坂 幸太郎
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2017/07/28
  • メディア: 単行本
グラスホッパー (角川文庫) 、 マリアビートル (角川文庫) に続く殺し屋シリーズ。前の2作に共通しているのが、最強の殺し屋といわれる連中が常人離れしているということ。もっと砕いていえば、少々おバカさんだったり、常識はずれだったりする(そういう風に描かれている)。本作の「兜」はそんな殺し屋連中の中ではきわめて常識人であり、恐妻家である。一見するとどこにでもいそうな家族の一員であり、もし何かのきっかけでその家の主人は殺し屋だったことがばれた場合、「とても信じられない」「あんな人のよさそうなご主人が・・・」「人は見かけによらないものですね」なんていわれるキャラクターだ。

冷酷非情の裏の顔・・・本書は主人公の妻と息子との日常を描くことで、主人公「兜」の性格付けを仕上げ、読者である我々との距離を縮め、共感を得ることで作品に引き付ける。家族との絆がテーマ?と思わせるのは「兜」がビルから飛び降りる際に浮かんだ映像・・・

伊坂先生独特の軽妙でリズム感のある文章は読みやすいし、彼が生み出すキャラクターの魅力的。こんな世界観の作品、今後も続けて欲しいと思った次第。

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誉田哲也の「硝子の太陽R-ルージュ」 [読書]

硝子の太陽R-ルージュ

硝子の太陽R-ルージュ

  • 作者: 誉田哲也
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2016/05/11
  • メディア: 単行本
姫川玲子シリーズにして「ジウ」とのコラボシリーズで「 硝子の太陽N - ノワール」とのリンク作品。一家惨殺という事件を追うという展開ですが、その背景にあるのは戦争であり、日本を取り巻く国際情勢であり、日本の置かれた立場=具体的には日本とアメリカの関係だったりします。
登場人物であるベトナム戦争に従軍した経験のあるアメリカ人の口から、戦後日本の歩みと日本という国のポジションが語られますが、そのシンプルにして単純な状況が本書に描かれている事件のきっかけになっているかもしれません。
日本国内、沖縄を取り巻く状況に絡め左翼と目される人物の暗躍はガンテツこと勝俣の案件として結論は出てないのですが、この曖昧な結論こそが今のすっきりしない日本そのものを映しているような感じも受けました。
姫川ねえさんのキレの良さは健在。読み物としては追っかけたいシリーズの一つではあります(このシリーズの殺人描写はかなりえぐいもので読む耐えない感じですが・・・)

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蘇える鬼平犯科帳-池波正太郎と七人の作家 [読書]

蘇える鬼平犯科帳―池波正太郎と七人の作家

蘇える鬼平犯科帳―池波正太郎と七人の作家

  • 作者: 逢坂剛
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2017/10/01
  • メディア: 単行本
シャーロックホームズやジェームズボンドなど、原作者が亡くなっても新たなストーリーが求められるというのはそれだけそのキャラクターを支持している人が多いということなのでしょう。冒頭にあげた二人は架空の人物でありながら、ファンの間では実在の人物として扱われているふしがある・・・。著作権を管理したり、ファンクラブなりの承認を得る形で新たな作品が今も出版されています。
さて、鬼平こと長谷川平蔵も日本においてはホームズやボンドに匹敵するキャラクターです(私見ですが)。もっともこちらは実在の人物であり、存命中の功績も記録が残っている人です。この人物をスター化したのが、今は亡き池波先生。彼の書いた鬼平がフィクションでありながら実在の長谷川平蔵その人という状態になっている。ちょうど司馬遼太郎の書いた坂本竜馬が竜馬像のデファクトになっていると同じ。
さて、本書はその池波先生のオリジナル作品1本と、逢坂剛、上田秀人、梶よう子、風野真知雄、門井慶喜、土橋章宏、諸田玲子の諸先生が書いた鬼平作品7本が収録されています。
いずれの先生も時代小説では御馴染みの顔ぶれ。家督をついでから火付盗賊改方に就くまでの時代の平蔵にスポットを当てた作品、うさぎこと木村忠吾が活躍する作品に加え、鬼平以外登場人物がまったくのオリジナルの作品もありで、その内容はかなりバラエティに富んでいますが、鬼平の世界観がそのまま。みなさんの鬼平に対する愛がそうさせたのでしょう。
アプローチとして面白かったのが、風野真知雄の作品。彼のシリーズ、「耳袋秘帖」の外伝という形で掲載されています・・・直接鬼平が出てこなくても"鬼平観"が漂っているところがすごい!
お薦めの一冊です。 

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高橋克彦の「水壁 アテルイを継ぐ男」 [読書]

水壁(すいへき) アテルイを継ぐ男

水壁(すいへき) アテルイを継ぐ男

  • 作者: 高橋 克彦
  • 出版社/メーカー: PHP研究所
  • 発売日: 2017/03/11
  • メディア: 単行本
今年は「明治150年」なそうな。しかし、東北人にとっては「戊辰150年」である。官軍という名の軍隊に故郷を蹂躙され、戦後は「一山百文」と揶揄され、さげすまれたきた150年である・・・この西から東、そして北という国内における侵略の歴史は戊辰戦争が初めてではない。
古くは阿弖流為、母礼と坂上田村麻呂ら朝廷軍との戦い、その後の源頼朝の奥州征伐、豊臣秀吉の奥州仕置、九戸政実の乱など時代の節目、変わり目において新しい勢力が全国を制覇する際、最後の戦いの場となるのが東北(陸奥、出羽/奥州)の地である。
本書は阿弖流為たちが坂上軍に投降してから約70年後の元慶の乱の顛末を描いた作品。天日子という阿弖流為の末裔がリーダーとなって蝦夷を率いて戦う。
多くのサポーター?が主人公の下に参集し、勝利を収めていくという展開は高橋先生の奥州・蝦夷ものの定番。そういう意味で裏切らない作品。
まだまだ東北には埋もれた名もなき英雄が埋もれていると思う。高橋先生も御歳だけど戦う蝦夷、戦う東北作品がもっともはまっていると思う。無名の英雄発掘!作品化、期待してます!


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アンソニー・ホロヴィッツの「モリアーティ」 [読書]

モリアーティ

モリアーティ

  • 作者: アンソニー・ホロヴィッツ
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA/角川書店
  • 発売日: 2015/11/28
  • メディア: 単行本
モリアーティといえばシャーロック・ホームズの最大にして最強のライバル。物語はホームズとモリアーティの直接対決=ライヘンバッハの滝の決闘の直後から始まります。この闘いによりホームズはしばらく行方をくらますことになりますが、本書では滝壺の中から引き上げられたモリアーティの死体検案に立ち会った(つまりモリアーティは死んだ!)アメリカのピンカートン探偵社の探偵とスコットランド・ヤードの警部の二人を主人公にした物語となっています。
モリアーティとアメリカの犯罪者集団が大西洋を挟んで連携するのを阻止するという内容ですが(モリアーティ亡き後、アメリカの犯罪者集団はその後釜に座る)、物語の基本的構成は警部はホームズ役、ピンカートンの探偵がワトスン役というホームズシリーズの原則を貫く形で進んでいきます。
『モリアーティはそう簡単に死ぬはずがない』という潜在意識を読者に持たせつつ、最後の最後で「あっ!」と言わせる展開はテレビ脚本などを手掛ける作者の得意とするところかも。
いずれにせよ、ホームズをそれを取り巻くキャラクターの奥深さという点で最強のコンテンツ。ホームズ絡みでは新作の部類でしょうが、どんどん広がりがみせるのはファンとしてはありがたいというしかありません。


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誉田哲也の「増山超能力師大戦争」 [読書]

増山超能力師大戦争

増山超能力師大戦争

  • 作者: 誉田 哲也
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2017/06/16
  • メディア: 単行本
テレビ化もされた超能力師シリーズの第2弾。超能力を巡る研究が外国から狙われているというプロットのお話であり、物語の構造自体はよくあるケースですが、「超能力」というある種の最終兵器が制御不能になった場合、非常に怖いことになるというお話でもあり、エンタテイメント作品でありながら、ある種ふか~ぃテーマを内包した作品なのではないかなと思いながら読み終えました。
その辺、ラストシーンで主人公である増山とその師匠にあたる高鍋との会話に集約されています。考えようでは、核兵器に似ている部分もあって、抑止力であったり、民生への有効利用、平和共存という大義名分にあって“心ある超能力師”が超能力師及びその関係する団体や規制を制御することで、その特殊な力をコントロールする。こころある人も含めた超能力の“全廃”はないわけで、能力を持ったものの既得権が全てを支配する構造にならないか?という懸念のまま作品は終了するわけです。しかもそのことを議論したことすら事実に残らない・・・恐ろしい話です。コミック的ストーリー(表紙のイラストもそうですが)ではありますが、ふか~いお話。展開から次回作もありそう。今後どんなお話になるんでしょうか?

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村上春樹の「パン屋を襲う」と「図書館奇譚」 [読書]

パン屋を襲う

パン屋を襲う

  • 作者: 村上 春樹
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2013/02/01
  • メディア: 単行本
図書館奇譚

図書館奇譚

  • 作者: 村上 春樹
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2014/11/27
  • メディア: 単行本
2冊とも随分前に読んだ記憶があるのですが、どうにも思い出せない。この装丁(絵本だそうで)を手に取って「おっ」と思ったのですが、読み進めても「あ~あの作品か?」という記憶がよみがえってこない。よほど印象に残らなかったのか、読んだつもりで単に目で追っただけだったのか、それとも全くの初見だったのか・・・
いずれも微妙なリアリティの世界にあって非現実的な部分も目につきつつスルーすることを恐れないストーリー。「図書館」の方はパラレル、過去と現実な局面が入り混じって多少は戸惑うものの、混乱した私の頭脳にはちょうどよい錯綜度合いでした。
もしかしたら本当に初見だったのかもしれません。


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吉川永青の「誉れの赤」 [読書]

誉れの赤

誉れの赤

  • 作者: 吉川 永青
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2014/06/25
  • メディア: 単行本
戦国の世にその名を知らしめた「赤備え」。武田軍団最強部隊として恐れられたものの、武田家の衰退とともにその命運はつきたかと思われました・・・・それが井伊家の赤備えとなり復活するまでのお話です。
主人公は成島勘五郎という名もなき武士。幼馴染で百姓ながら成島家の郎党的立場だった藤太の二人の後半生を描いています。武田の赤備えを率いた山縣やそれを引き継いだ井伊といったそれなりに歴史に名を遺した人たちからの視点ではなく、軍団を構成する一兵卒の立場から描いた点が面白い。
武士としての対面、生き方にこだわり、その証として赤備えの一員であったことにこだわった勘五郎と根っこは百姓にあって、山縣昌景や石川数正といった「上司」に目を掛けられ、上司を慕うことで赤備えとしての役割と存在することに意義を感じていた藤太は、井伊直政というある種の破天荒な上司を持つにいたり袂を分かつことになります。
赤備えとはこうあるべき・・・という生き方と、赤備えに所属したことで得た生き方・・・このせめぎあいだったのではないかと思います。
関ヶ原の合戦で井伊の抜け駆けの際の戦闘で、一方の主人公である勘五郎は最期を遂げ物語は終わりますが、数千人(諸説あり)にも及ぶという兵卒の骸にたたずむ藤太の姿が目に浮かぶようです。歴史とはこうした名もなき人々によって作られているとしみじみ感じさせられる作品でありました。

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